杉村三郎シリーズ③(上)
主な登場人物
杉村 三郎(すぎむら さぶろう)
主人公。今多コンツェルン広報部「あおぞら」編集部に勤めるサラリーマン。38歳。会長の娘、菜穂子(なほこ)を妻に持つ。一人娘の桃子(ももこ)がいる。数年前から何かと事件に巻き込まれる。
園田 瑛子(そのだ えいこ)
「あおぞら」の編集長。サバサバとして物怖じしない性格なのだが、バスジャック犯の暮木を見て取り乱す。事件後は休職している。
佐藤 一郎/暮木 一光(さとう いちろう/くれき かずみつ)
63歳。バスジャック犯。杉村たちを人質にとったあと、とある3人を現場に呼び寄せるように指示。優れた話術で三郎たち人質を掌握し、慰謝料を払うことを約束する。
警官隊が突入してきた際、手にしていた拳銃で自殺する。
足立 則生(あだち のりお)
新聞販売員の店員。43歳。5年前に詐欺の片棒を担がされたことで北見氏(現在は故人)に相談。その時は北見氏の説得により諦めたが、5年後に自分を利用していた詐欺師に再会。その後、詐欺師は何者かに刃物で刺され「足立則生に刺された」と言い残して絶命したため、逃亡する。
自殺したバスジャック犯の正体とは?
バスジャック犯の暮木一光は三郎たちに「慰謝料を払う」と約束したものの、調査で明らかになった暮木老人の身の上は質素で、近所の民生委員からも生活保護を受けるように勧められることもあったなど、とても慰謝料など払える状況にはなかったことが明らかになります。
が、後日本当に人質たちに慰謝料が送られてきたところで事態は一変。慰謝料の受取で元人質たちがもめた結果、カネの素性と出所を確かめてから決めようという話になり、下巻に続きます。
三郎、事件に巻き込まれすぎちゃう?
数年に一度とはいえ、今回三郎に降り掛かってきた事件は3つ。
1つはバスジャック事件ですが、2つ目は足立則生が容疑者として追われている新聞販売店殺人事件。そしてもう一つは事件とは言えないまでも、またセクハラ・パワハラ騒動に巻き込まれています。
まあ、セクハラ、パワハラは働いているとどうしても通れないところはありますが。特にこの小説の舞台の2006年くらいでは…。
お義父さんが有能すぎる
まあ、今多コンツェルンの会長だけあって目の付け所がハンパではない。園田編集長の過去の出来事や今回の休職、バスジャック犯の暮木が拳銃は使用しているものの、ほぼ話術のみで現場を掌握したことから、暮木の大体の正体を割り出し、それが事件の解決にむけてとても役立つことになります。お義父さんすげー。
ペテロって?
イエス・キリストの12使徒の一人で初代ローマ法王。イエスが捕まる前の夜「最後の晩餐」の時にペテロはイエスへの忠誠を誓うのですが、イエスに「鶏が鳴くまでにあなたは私のことを“知らない”と3度言う」と予言され、その通りに。
イエスの処刑時にはいなかったものの、復活したイエスに赦され、布教開始。最期はローマ皇帝ネロの迫害に遭うが、今度は逃げずに殉教。
この小説では冒頭にレンブラントの「聖ペテロの否認」が掲載されていて、人々の問いに「イエスとか知らんて」と答えているであろうペテロと、捕縛され連行されるイエスが振り返ってペテロを見つめる寂しそうな顔が印象的。
聖ペテロと今回の事件、一体どういう関係があるのか。そして事件の行く末は──ってことで下巻に続く。